Z 農薬

 殺虫剤と殺菌剤だけが農薬ではありません。農薬には植物ホルモンである植物成長促進剤、発芽抑制剤、除草剤や害虫を誘引捕殺する誘引剤、害虫や鳥獣を寄せ付けない忌避剤などもがあります。また各種農薬の効果を増進させるために添加する展着剤も農薬に含まれています。これらの農薬は、「農薬取締法」以外にも「毒物及び劇物取締法」、「消防法」等でその取り扱い、貯蔵法などが規制され、「食品衛生法」では農産物などの食品における農薬の残留許容量が定められています。
 現在市販されている農薬はその毒性の強さによって、普通物、劇物、毒物、特定毒物に区分されています。また魚介類に対する毒性は別に定められ、毒性の弱い順に、A、B、Cと区分され、そのうちBは、B−Sなどと再区分されています。B−Sは特定の魚(フナ、ボラ、ウナギ、ドジョウ)に特異的に作用するので、取り扱いはCに準じて対応する必要がある農薬です。
 毒性の強い農薬を回数少なく散布するよりも、普通物をその使用方法を良く順守する事により、より効果的な散布ができます。吸汁性害虫に使用する農薬は、散布するたびに系統の異なった農薬を用いて、害虫の薬剤抵抗性のできるのを防がなければなりません。
 農薬には種類名、一般名、商品名の三つの名前があります。
 種類名とは農薬に含まれている有効成分の名称に剤型名をつけたものです。例えば、DEP乳剤、アセフェート粒剤とか言われているものです。この種類名が同じであれば、商品(銘柄)名が異なっていても基本的には中身は同じです。例えば、DDVP乳剤では、ホスビット乳剤75、デス75、ラビック75乳剤、DDVP乳剤75などの商品(銘柄)名で農薬会社から販売されています。
 一般名とは農薬の有効成分の化学名を簡潔にした名称で国際的に通用する名称である国際標準化機構(ISO)による名称と、この名前に準じる名称があります。例えば、fenitrothion(フェニトロチオン)が前者で、MEP(スミチオン)が後者です。
 商品名とは農薬の銘柄名で農薬会社の登録商標になっています。殺虫剤でよく知られているスミパン乳剤は商品名で、主成分はジメチル(3−メチル−4−ニトロフェニルチオホスフェート)で略してMEP乳剤と良くいわれています。いろいろな農薬会社から「○○スミチオン乳剤」という名で売られたり、あるいは全く別の名前を付けて売られていることもあります。したがって商品名を使って農薬を注文すると、他社の同じ有効成分の商品があっても「そのような薬はございません。」と断られる場合もあります。また逆にMEP乳剤など有効成分の名称を知らない販売店もあり、農薬を買う場合、使う目的、商品名とその種類名を述べて買うようにするとよいでしょう。少なくとも、どのような病害あるいは害虫に使うかなど使用目的をはっきりと販売店員に述べ、相談するとよいでしょう。
 一つの農薬で全ての病虫害に対して効く、というものはありません。病原菌に対しては殺菌剤が、害虫に対しては殺虫剤がありますが、これらの農薬には、そのひとつひとつに適用病名や害虫が登録されています。庭樹に発生する多くの病虫害に対して、必ずしも登録薬剤があるものではありません。発生量が少ないあるいは被害程度の軽い病害虫には、登録薬剤としての効果試験がほとんど行われていません。したがって農薬使用対象庭樹あるいは病害虫の登録は取られていません。庭樹に使用できる農薬は、草花や野菜にくらべ大変少ないです。農薬の袋または瓶等にかかれている説明をよく読んで、注意して購入し散布してください。

  見 出 し
 1.殺虫剤
 2.殺菌剤
 

 1.殺虫剤

 字のごとく昆虫を殺す農薬です。現在市販されている商品で、有効成分による分類だけでも100種類ほどあります。これにそれぞれいくつかづつ各メーカから商品がつくられていますので、現在市販されている農薬は、殺虫剤だけでも数100種類にもなると思われます。
 庭樹の葉や枝に多数寄生し葉を黄白色にするダニに、殺虫剤はあまり効果はありません。昆虫の仲間は足(脚)が六本あります。しかしダニの仲間の足は八本あります。昆虫よりも蜘蛛に近い節足動物です。身体の構造や生理も異なり、農薬の作用機構も全く異なってくるためです。ダニ防除のためには殺ダニ剤を使う必要があります。
 昆虫であるカイガラムシは5〜6月頃の一時期を除いて殻をかぶっていますので、一般の殺虫剤は効果があがりにくいです。このため5〜6月のふ化幼虫期にMEP乳剤、DDVP乳剤などを散布する必要があります。薬剤散布するにも適期があることを十分知る必要があります。

 2.殺菌剤

 いわゆるかび、糸状菌といわれる菌類によって起こる病害に対して用いる農薬です。人が病気になったときには、薬を飲んで治療する場合があります。しかし、庭樹の場合薬剤散布によって病気にかかった庭樹を治療することは、ほとんど不可能です。庭樹の病害に対しては病気にかからないように、また広がらないようにする予防散布が正しい使用法です。一度病原菌に侵された庭樹の組織は破壊され、特有の病徴を示します。破壊された組織は、死んだ細胞の塊であるため殺菌剤を散布しても元には戻りません。庭樹を良く観察して発病初期に10日から2週間おきに定期的に数回散布し、病原菌の密度を低下させ、また庭樹の未感染の組織の表皮を薬剤の被膜で守ることが必要です。

 3.散布液の作り方

 農薬には、剤型で分けると粉剤、粒剤、水和剤、乳剤、液剤、油剤、エアゾール、燻煙剤、燻蒸剤などがあります。ここでは主な剤型である水和剤と乳剤の散布液の作り方を述べます。
 薬剤を散布するとき、エアゾール剤タイプになってそのまま使用できる製品もありますが、乳剤、水和剤などその多くの製剤は水で薄めて使います。一度水で薄めますと、その薬液は長期間保存できません。散布に必要な量をあらかじめ調べて、瓶や袋に書かれている説明にしたがって使用濃度を守り散布液を作ってください。濃度が規定よりも薄い場合は効果が劣り、逆に濃度が濃い場合は、葉に斑点ができるあるいは枯れるなど薬害をおこす危険があります。乳剤の場合瓶のキャップに目安となる容量が表示されていたり、簡易な軽量スポイドが付いています。また水和剤は薬剤の重さを計る必要がありますので、1g単位で計れる簡易な秤を購入して下さい。くれぐれもキッチン・バカリを共用しないで下さい。水の計量には清涼飲料水の1リットル瓶や牛乳パックなどを使うと容量が比較的はっきり計れます。これらの容器で水量を計りながらバケツに水を移し変え、乳剤、液剤の薬剤をいれます。水和剤の場合あらかじめ少量の水で溶かした後、規定量の水を良くかき混ぜながらいれます。最後に少量の展着剤をいれ、再び良くかき混ぜ噴霧器に入れ変えます。
 農薬はその種類によって、混用して散布することができるものもあります。これによって害虫と病気または異なる害虫や病気類を一度に退治できます。しかし、どの農薬でも、全ての農薬と混合できるとは限りません。農薬販売店あるいはメーカなどで、確かめてから混合して下さい。この時の混合の仕方は以下の通りです。
 出来上がった散布液量に対して、それぞれの薬剤量が入っていることが基本です。たとえば1000倍使用の薬剤Aと、500倍使用の薬剤Bを混合して、1リットルの散布液を作りたいときは、薬剤Aは1g(またはcc)、薬剤Bは2g(またはcc)が必要です。剤型の異なる農薬の混合方法は次のように行います。
水和剤と乳剤:最初に水和剤の散布液を作る。この液に見合う乳剤を良くかき混ぜながら加える。
乳剤と乳剤:規定量の水にそれぞれの乳剤を良くかき混ぜながら入れる。(規定量に薄めた散布液を混合しない。この場合できあがった散布液の中には規定量の半分しか薬剤が入っていない。)
 水和剤と水和剤:規定量の水を半分に分け、それぞれに水和剤を溶かす。二つの液を一つの容器にかき混ぜながら入れる。
 散布液には展着剤を規定量加えると薬効をよりいっそう高めます。

 4.薬剤の正しい散布の仕方と注意事項

 庭樹に発生した病虫害に対して農薬を散布する場合、まず病虫害名をはっきり確認し、その発生生態を知っておくことが大切です。それによって薬剤散布の適期を知り、最小の労力で最大の効果をあげることができます。また早期発見早期防除(治療)は、人の病気と同じです。使用する農薬の瓶や袋に記載されている適用作物(庭樹類は大変少ないですが)、使用濃度、使用上の注意事項などが小さな字で書かれていますが、よく読んで正しく使用してください。庭にはいろいろな樹種が植えられており、樹種によって展葉期、新緑期、落葉期などのずれがあります。新緑樹の隣は展葉期の庭樹の場合もあります。樹種、品種により同一農薬でも感受性が異なりますので、散布するときは被害樹の周囲にも注意を払ってください。特にウメなどを含むバラ科の庭樹やカエデ類は、薬害が発生しやすい樹木です。心配な庭樹には全面散布する前に目立たない枝葉に散布し、1週間ほどたって薬害のでていないことを確認してから全面散布に移ります。夏期の日中高温時は薬害が発生しやすいので散布は避け、朝夕の涼しいときに行います。また人、ペット、池の魚、ミツバチや天敵昆虫にも気をつけ、毒性の低い農薬を選び、散布範囲に注意を払い、散布液が目的以外のところに飛散しないよう強風時には避けるなど、注意深く散布してください。散布液が人体にかからないように、マスク、ビニル手袋、帽子、長袖の服を着用して皮膚の露出部を少なくし、風上から散布を行います。粒剤以外の散布は散布後半日ぐらい雨の降らない日を選んで散布します。散布液が乾くまでに雨が降ると薬液が流され薬剤の効果がなくなります。
 散布作業が終わったらうがいをし、顔、手足など皮膚の露出部を石鹸をつけてよく洗い、使った衣服、器具も同時によく洗っておきます。散布液が余った場合、安全な場所に穴を掘って徐々に土にしみこませます。下水や河川に流してはいけません。使用後の薬剤は飲食物、食器と区別し、密栓、密閉して直射日光をさけ、子どもの手の届かない冷暗所に火気をさけて保管してください。


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