U 庭樹の環境

 美しい樹形や花を楽しむためには、常日頃から庭樹をよく観察し、いつも健全な状態に保っておく必要があります。万が一樹勢が弱ってきたときに、軽症の間に手当ができるように心がけておきます。

  見 出 し
  1)日当たり
  2)
  3)
  4)気温
  5)土壌
 2.遷移
 1.庭樹の性質と適地

 植物は根の部分で水分、養分を吸収し、葉の部分で炭酸同化作用を行なって生育しています。花、葉、枝幹など目に見える地上部ばかりに気を取られがちですが、目に見えない地下部の根の環境についても、地上部以上に注意を払う必要があります。

 1)日当たり

 庭樹はその性質として、日照の要求量がそれぞれ異なっています。日の良く当たるところを好み、日陰では生育できない陽樹、逆に日当たりでは余り生育できず、日陰のほうが生育がよい陰樹、どちらでも生育できる樹木などに分けられます。また種子が発芽成育するとき、明るい場所でしか発芽できない樹種や、日陰でも良く発芽する樹種などがあります。したがって庭樹を植える場合、植える場所の日照条件を調べて、その環境条件に合った庭樹を検討する必要があります。たいていの庭樹は日光のよく当たる場所に植えればよく生育しますが、アオキ、ヤツデ、センリョウ、マンリョウなどは日陰を好む庭樹です。これらを直射日光がよく当たるところに植えると葉が黄色くなったり、黄色い斑が美しく出なかったりするだけでなく、庭樹の持っている特性まで左右します。日照条件は植栽後の樹勢維持にきわめて大きな影響を与えます。このため自分の好みによって、どこにでも植えれば良い、ということは慎まなければなりません。陰樹でも、まる一日直射日光があたらないところでも生育しますが、不要な枝葉を剪定し、天空からの散光をうまく利用するようにします。

 ←葉焼けしたアオキの葉

 ←葉焼けしたヤツデの葉

 2)風

 大きな庭樹は、直根を切断されて植えられています。したがって強風をまともに受けると、倒れることがあります。植栽後数年は支柱でもって倒伏を防ぎます。しかし支柱と庭樹の幹との固定部分あるいは当てた部材の箇所に害虫や腐朽菌が侵入したり、シラカシ街路樹庭樹の巻き込みが起こったりして、庭樹の衰弱につながっていきます。また何年も支柱に頼っているような庭樹は、根の発達が悪いので庭土の排水、軟らかさなどの土壌調査を行う必要があります。

 庭樹は清浄な空気を必要とします。庭の落ち葉を焚き火するとき、ついでに発泡スチロール、ビニル袋など石油製品も燃やすと、これから庭樹にとって大変有毒なガスが発生し、枝葉を枯らしてしまうことがあります。煙のたなびいた方向だけ数日後赤く枯れあがり、焚き火のことなど忘れてしまって、原因不明の枯れになります。「野焼き」は禁止されています。たき火には注意しましょう。

 強い風は葉からの水分蒸散を強制的に行います。風当たりの強い場所では気をつけなければなりません。

 3)雨

 日照を好む好まない庭樹があるのと同じように、土壌中の水分の多い少ないによっても、庭樹の生育は大きく異なってきます。水分の多いところを好むヤナギの仲間や、乾燥地を好むアカマツなど庭樹にはいろいろあります。一箇所に両方の庭樹を植えるには、一方は土を盛り高植えするとか、何らかの方法を取る必要があります。しかし、その後の管理が大変です。

 4)気温

 気温は、季節によってまた日中夜間によっても大きく変化します。また日陰、日当たりによっても変化します。比較的高温を好む庭樹と、夏の高温多湿を嫌う庭樹があります。

 鉢植えのゴムノキやドラセナなどをお持ちの方は、冬の管理が大変でしょう。家の中を太陽光線を求め、あちら、こちらへと重たい鉢を毎日移動さすのは重労働です。それと同じように南方系の庭樹を、無理して庭に植え込むと冬の管理が大変です。近くの野山を歩き、自宅の近くにはどのような樹木が生育しているか良く観察して下さい。

 5)土壌

 庭樹の大切な根を健全に育てるためには、土壌の条件が重要な役目をしています。排水性、保水性、通気性、保肥性が優れていることです。このほかに有機物の混合割合、庭土の比重、土壌pHなども大切です。

 土壌は水、空気、固体の3つの相が入りまじっています。これらの割合によって、庭樹の生育は大きく左右されます。土の粘土質分の割合によって、砂土、砂質壌土、壌土、埴質壌土、埴土に分けられ、砂質壌土や壌土の庭土が、庭樹の良く育つ土壌です。湿らせた土を指先の上でこねると、砂の感じを1/3〜1/4ほど感じる程度の土壌です。この範囲の土が水分、空気を十分供給できる土です。

 宅地造成された場所では、そこが盛り土された場所か、あるいは切り取られたのかを、確認しておく必要があります。盛り土された場所では、元あった土の表面と盛られた土の境がはっきりしており、排水や庭樹の根の伸長に大きな影響を与えます。山土が切り取られた庭では、腐葉土をいれ、施肥などを行い、新しく庭樹に適した土壌に改良して行かなくてはなりません。宅地造成時の大型機械は、土壌の粗孔隙をつぶし土壌中の隙間を減少させるので、透水性、通気性が損なわれます。水田跡に造成された宅地では、水田の不透水層が残り、根の伸張が抑制されたり、加湿な状態になり根腐れをおこします。

 次に土壌中の空気の量ですが、これは土壌構造によって、大きく変わってきます。スコップなどで土の塊を取り出し、軽く力を加えて塊を割ったとき水分に富み、軟らかい数ミリ程度の構造で、指の間で容易につぶれ、つぶすのにほとんど抵抗を感じないものが最良です。このような土壌は常時適潤で土壌動物や微生物が数多く生息しています。ミミズ、ヤスデ、オカダンゴムシ、ササラダニなどの土壌動物は、生物遺体や腐植を食べて糞としながら、土壌を撹拌し、膨軟化、団粒化を促進して、良好な土壌にします。また細菌、糸状菌などの土壌微生物は、生物遺体の分解や腐植化に役たっています。したがって、土壌動物が多く見つかる庭は排水性と保水性が良く肥沃で庭樹にとってたいへん成育のしやすい土壌です。庭樹にとって、土壌は根を張りその大きな樹体を支える場であると同時に、根系を通じて成長に必要な水分、養分や空気を吸収する場でもあります。したがって、土壌中の環境が庭樹の成長の良否を直接支配します。庭樹にとって良い土壌条件とは、適切な水分、養分、空気があり、庭樹を支えるだけの重さのある土壌が、地表から十分な深さまである必要があります。これらの条件を満たすためには固相(植物を支え安定させる個体部分)、気相(呼吸のため必要な気体部分)、液相(水分の部分)という三つの相のバランスがとれ、しかも良い状態を保ち続ける土壌が、よい庭土といえます。雨が降ると土壌中の気相に、水が浸透していきます。その分、気相が少なくなります。この状態がいつまでも続くと土壌中の酸素がなくなり、根は呼吸が困難になって、腐り死んでしまいます。

 地球の重力によって水は地下深いところへ移動しますが、土壌の性質によって、水の移動する速さが異なってきます。粘土などは水持ちが良く、なかなか水は移動しません。しかし砂地ではすばやく移動し、地下水となります。これらの中間の土壌、つまり根に必要な水分を保ち、なおかつ必要以上の水分は速やかに排水され、その空隙に新しい空気を取り入れて、庭樹を健やかに育てることのできる土壌が最良の庭土です。散水や雨水は一時的に気相内に水分を取り入れることによって、気相内の古い空気を新鮮なものにいれかえる働きもあります。

 2.遷移

 新しい溶岩や火山灰地あるいは崖崩れの跡地では、裸地となり生物は全く成育していません。しかし、しばらくするとまず最初にコケやシダ類の侵入と定着が始まります。地表の風化や植物の枯死体による腐植質の堆積が進むと一年生の草本が侵入し、草原となります。山火事跡や放置された休耕田などは、この一年生草本の侵入から始まります。やがて、ススキやカヤなどの多年生草本の草原に変わります。そこへ周囲から成長速度の速い陽樹が侵入し、陽樹林が形成されます。その林内では陽樹の種子は少し暗いので発芽できないか、発芽してもその後の成長がはかばかしくありません。しかし、陰樹の種子は発芽し成育を続けることができますので、やがて陰樹の林ができ、以後ずっと陰樹の森林が続きます。このように植物群落が、時間とともに変化していくことを遷移といい、最後に到達した安定した群落を極相といいます。奈良の若草山がいつまでもシバやカヤで覆われているのは、上の考え方からするとおかしいのですが、これには毎年一月の成人式の日に行われる山焼きや、シカの食害によって植物遷移が進まないためです。畝傍三山は今シイやカシ、クスノキ、ヤマモモなど常緑広葉樹の陰樹が、その大半を占めてきています。二十数年前にはまだまだアカマツなど陽樹が多くありました。マツクイムシなどによる松枯れは遷移の進行を早めましたが、いずれはアカマツ林が常緑広葉樹の山や森になるのがこの近畿地方の極相林です。近くには吉野町の妹山、桜井市の与喜山などがその例です。景観上アカマツ林はすばらしい景観ですが、いつまでもアカマツ林として維持するためには、遷移の進行を止める、自然と対抗する大きな力が必要です。


  はじめに
T 庭樹の組織とその働き
U 庭樹の環境
V 樹勢回復
W 肥料
X 多種類の庭樹に共通して発生する病害
Y 多種類の庭樹に共通して発生する害虫
Z 農薬
[ 整枝剪定
\ 移植
] 庭樹の増殖
]T もっと詳しく知りたい方に
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